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ゲーム好きの医師がコロナ禍で1200万円使った話

目次

はじめに

 2020年に新型コロナウイルスが流行し始めてから3年以上が経ちました。ほとんどの人々にとって、日常生活が強制的に変化させられ、一生忘れられない3年間になったのではないでしょうか?

今がコロナウイルスの脅威を乗り越えた「アフターコロナ」なのかどうかは、きっと評価が分かれるところでしょう。ミクロで見れば、まだまだ新型コロナのせいで重症化する患者さんはいます。一方、社会全体ではマスクを着けずに外出する人々が増えていますし、経済状況も元に戻りつつあります。

 しかし、僕にはコロナ禍で忘れられない出来事があり、個人的な禊のような意味合いも兼ねてるかもしれませんが、記事として遺しておこうと考えました。
 これはコロナの問題に限らず、社会的災害が起きた非常時において、世の中をできるだけ無事に保つための社会人としての責任、そして、他者への想像力、物事の優先順位などが問われていた話。

某ゲーム界隈と医療現場のギャップ

 僕は医師ですが、プライベートでは某格闘ゲームのユーザーという顔もありました。トラブルは、そのゲームのコミュニティの中で起きました。

 2021年の夏ごろ、新型コロナウイルスの「デルタ株」が流行していた時期でした。デルタ株といえば、新型コロナの変異株で感染力が強くなっており、重症者も急増していました。
 ちょうど夏に増える心筋梗塞・脳卒中の搬送も増える時期で、そもそも搬送すらできず、あえて言葉を選ばないのであれば「病人が家で死ぬのを指を咥えて待つしかない」そんな事が当然のように起きていた季節でした。

 しかし、ある格闘ゲームのコミュニティでは、オフラインのイベントを強行する動きがありました。特に横行していたのが「宅オフ」、つまりメンバーの誰かの自宅で集まって行われる非公式のオフ会です。参加者が狭い場所に密集していて、ソーシャルディスタンスも保たれていませんでした。

 このようなオフ会では、事前に参加者の体温を測ったり、マスクの着用を義務づけたりする最低限の感染対策さえ取っていなかったでしょう。実際、熱があるのに無理してオフラインのイベントに参加したプレイヤーがいたとのタレコミもありました。

 しかも、そうした「宅オフ」や大会形式のイベント開催に関わったリーダー格のひとりが新型コロナにかかってしまいました。本来であれば責任をとって謝罪すべき場面ですが、当の本人は「感染したのはオフ企画が原因じゃない」と言い張り、決して非を認めようとしませんでした。
 普段の素行として、当人は同じサーバーに携わる中で自分のやりたい事しか取り組まない姿勢を目の当たりにしていたため、ユーザー間ならまだしも世間にまで迷惑をかけるのか、と今回ばかりは憤りを我慢できませんでした。

 そのような状況下で、オフ企画を主催、あるいは参加したゲームコミュニティの仲間たちを、僕はTwitter上で批判し、そのことをきっかけに、対立状態となったのです。

 当時まさに、デルタ株の感染対策の現場に立っている医療関係者のひとりとして、「宅オフ」で好き勝手に遊び、悪びれないメンバーたちの態度を、どうしても見過ごすことができませんでした。医師として当たり前となっている医療現場の緊張感と、あまりにも懸け離れていたからです。
 こちらは医学的根拠をもって冷静に批判しているのですが、オフ会を開催している側からは、感情的な反発を呼んだのです。きっと、自分たちがやっていることを客観的に正当化できる理由が見当たらないからでしょう。

 こうしたゲームコミュニティには「オフライン至上主義」のような考え方のメンバーも少なくありません。「オフラインなら遅延がないし、本当の闘いができる」という認識なのでしょうが、本当に強いプレイヤーなら、オンラインであろうと関係なく強さを発揮していました。深刻なコロナ禍でも「オフラインでなきゃダメ」な言い訳をでっち上げている時点で、底が知れているのです。

 僕自身、オフラインのゲームイベントには好意的だったのですが、医者という立場上、そして一人の社会人として、コロナ禍でのオフラインイベントへの参加は一切していません。しかし、無責任なイベントが密かに開かれている現状が腹立たしく、やがてTwitter上での対立に至りました。

 Twitter上でのトラブルがあって以来、ゲームのアカウントなのに、僕はゲームについて思い通りのことを書けなくなり、新型コロナウイルスに関する客観的で無難なツイートしかできなくなってしまいました。 僕だって、揉めたくて揉めているわけではありません。相当なストレスになりますし、Twitterからしばらく離れたくなったほどです。衝突はできるだけ避けたい。そうなると、Twitterのような目立つ場で、自分の主観的な意見をツイートすることを自粛せざるをえませんでした。

一般社会に対する関心

 きっと、ゲームのオフラインイベント参加者たちの手前、その立場上、断固として認めるわけにはいかなかったのでしょう。確かに、オフ会の類が感染経路だったと特定できたわけではありません。しかし、国民に対する外出自粛が要請され、緊急事態宣言も出されていた状況下で、社会的に無責任なオフライン企画を開催したことそのものが非難されるべきです。

 しかも、そのゲームはオンライン対戦の機能も備わっています。あれだけ新型コロナのデルタ株が蔓延している中で、どうしてもオフラインで行わなければならないのでしょうか。たとえどんな理由を並べても、もはや正当化されないでしょう。僕が批判した相手は、(普段の素行もさることながら)責任者の立場であるにもかかわらず、不用意に映画館など軽率に出歩いていたりもしていたようです。感染力が強くて重症化しやすいデルタ株が蔓延している中、軽率に不要不急の外出をしていたのです。

 当時、芸能人やYouTuberが不用意に出歩いて、居酒屋などに大勢で集まって飲んでいたことが世間から激しく叩かれて炎上したことがありました。有名で目立つ人は、それで懲りるわけです。

 ただ、そうではない人々が不要不急の外出をしたとしても、その行動に対してブレーキをかけられる物が少ないのです。ゲームのオフ企画は、コミュニティの外部の誰からも、監視や干渉を受けない場といえます。世間からの厳しい目を避けられる室内であれば、自分勝手に振る舞って、「うっとうしいコロナ禍から解放された」と一時的に喜んでいるのかもしれませんが、そういう目立たないところから、ひそかに感染症は拡大していくおそれがあると思います。

 そもそも、ゲームメーカーが公式に認めていないオフラインの大会を開催し、特に収益化することに対しては、多くのゲームメーカーは慎重であり、敏感になっています。ゲームメーカーの目が届かないところで、無責任な運営が行われたり、トラブルなどが起きたりすれば、ゲームそのもののイメージダウンにつながりかねないからです。

 今回のようなコロナ禍におけるゲームのオフ企画のあり方は、ゲームメーカーへのリスペクトが足りず、社会的なルールを尊重する意識が決定的に欠けています。ゲームに対する意欲は一人前だけど、肝心な社会情勢に疎いという、内側にばかり閉じこもった運営になっており、コミュニティの外部、つまり「まともな大人」から見たら理解されないことは間違いありません。

 それなのに、コミュニティの中では自分が少数派に追い込まれてしまう現実に、悔しさや理不尽さを感じていました。

対戦ゲームの最期に

 どこが、ウイルス流行の起点、そしてクラスターになるかわかりません。僕が医師として診てきた患者さんの中には施設入所中の高齢者も大勢います。たまたま、家族団らんのために一時的に外出し、施設に戻ってきた後に新型コロナに感染したとわかり、そのせいで施設がクラスターとなってしまった事例もあります。きっかけは施設からの一時外出でしたが、これだって、感染予防の要請と人間的な生活との間でせめぎ合う、ギリギリの選択だったわけです。

 デルタ株が流行した頃には、一生に一度の思い出になるはずの修学旅行にすら行けなかった高校生もいますし、離れて暮らす祖父母や親戚にもなかなか会えない人々が大勢いました。しかし、みんなで自粛やガマンを少しずつ分かち合ってきたことで、感染予防に貢献したのです。

 もちろん、感染症対策さえ行っていれば、なんでも正当化される……というわけではありませんが、イベンター側の人間にも関わらず、あえてリスクの高い行動を選び取り、他人をも巻き込むのは、いかがなものかと思いました。

 また、「そこまで言うなら、お前がゲームコミュニティの責任者に就くべきだろう」と運営に立つ側の方から実際に批判もありました。たしかに一理あります。
 しかし、僕はその当時、あまりにも仕事が多忙で、ゲームに触れる余裕すらありませんでした。医師としてデルタ株の感染者と向き合い続けるだけで精一杯で、心身ともに磨り減らしていました。
 代わりとなったかわかりませんが、そのゲームの国内開催イベントは全て、僕が主体となって制作した、そのゲームイベント向けの感染対策ガイドラインを用いてもらうよう、協力的だった主要な大手イベンターに取り計らってもらいました。
 ガイドライン制作に協力してくれた、ゲームコミュニティ内の他の医療関係者や良識あるイベンターの方には感謝しています。 それが僕にとってのゲーム自体へのせめてもの感謝・リスペクトの形であり、そのゲームコミュニティへは最後の介入となりました。

余談ですが、該当ゲームのメーカーはそもそも、営利目的に沿ったゲームソフトの利用を禁じていたのですが、それで収益を得ている人から「収益を得られず困っている、どうしてくれるんだ」と実際に文句を言われた時には呆れてものも言えませんでした…深くは追及しませんでしたが。

After【R】

 感染症対策に難しいことは必要ありません。移動を防ぎ、むやみに他人と対面しないようにする。これだけです。

 たったこれだけのことですが、何ヶ月、あるいは何年も自粛の要請が続けば、人はなかなか耐えられなくなるのでしょう。

 もちろん、感染予防が最優先なのか、それとも行動の自由や経済を動かすことにも配慮しなければならないのか、そのバランスが重要なのはわかります。それでも、健康な人すらも、たちまち入院させてしまうほどの感染力と危険性があるデルタ株が蔓延している状況では、感染予防の方に比重を置くべきでした。

 自分は感染しても症状が出にくいからといって、油断していると、リスクの高い高齢者などに知らないうちに感染させてしまいかねません。

 自分さえ良ければいいという認識の甘さが、重症者や犠牲者を増やし、感染拡大を長引かせる根本原因となってしまうのです。

 僕は対戦ゲームのコミュニティから離れましたが、このままで終わらせるわけにはいかないと思い、正しい医療知識を一般の皆さんへ、親しみやすい形で広めていくキャラクターを軸に添えたYoutubeやSNSコンテンツ始めることにしました

 デザイン費用・コンサルタント契約・HP作成・技術費用・器材費用などで、しめて自費で1200万円以上かかったんですけれども、今はそのキャラクターを運用していません。医者をどう思われてるかわかりませんが、個人的にはかなりの額でした。それでも僕は後悔していません。

 世間にヘルスリテラシー、つまり健康についての基礎知識を広く浸透させていくことは、お金に替えられない大切な価値があると信じているからです。あわよくば、今後どこかで、制作したキャラクターたちを活用できればいいなと思っていますが、他にも伝え方はいろいろあるはずです。もし興味を持ってもらえたら、今後の動向を追ってもらえると嬉しいです。

 今まで立てていたプランで変更したところもあり、直近で僕が監修した、いろんなプロジェクトを応援してくれていた人には、申し訳ない気持ちもあります。それでも、今後も医師としての情報発信をして、公衆衛生に貢献したいと考えています。

最後に

 ここまで読んでいただきありがとうございました!柄にもなく真面目に書き連ねてしまった…笑
 実のところ、SNSで誹謗中傷を受けた経験を思い出して僕個人の感情が剝き出しにならないよう、当時の出来事と無関係なライターの方に査読をお願いして今回の内容にまとまりました。
 とはいえ、話したいことは話せたので、今後は心機一転、後腐れなくSNSで活動できると思っているので、露出の頻度は増やしていきたいなと、思っています!

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